スペシャル対談「感じる”心”をもっと育てる!」

株式会社子育て研究所の代表であり、教育コンサルタントの佐藤理香さんと、NPO法人みんなのことば代表理事の渡邊悠子による対談が実現。子どもの心を育てる「0歳からのクラシックコンサート」について、みんなのことばの活動について、語り合いました。

佐藤理香(以下、佐藤) みんなのことばはどういう団体ですか?

渡邊悠子(以下、渡邊) 音楽で子どもの心を育てるNPO法人です。具体的には、未就学児、6歳までの子どもたちに、プロの音楽家による参加型のクラシックコンサートをお届けして心を育てる活動をしています。

佐藤 団体の設立はいつですか?

渡邊 2009年に設立して、年間120回ぐらい、保育園・幼稚園での公演、親子コンサートなどを開催しています。

佐藤理香さんと渡邊悠子
みんなのことばのオフィスにあるバイオリンデスクを囲んで。左が教育コンサルタントの佐藤理香さん。

6歳までが心を育てる大切な時期

佐藤 ある海外論文では、6歳までに子どもの脳の9割が構築され、感性も同時期に磨かれるとあります。今や、保育園保育指針や幼稚園教育課程に、感性教育の大切さが掲載され、日本でも推進していこうと取り組みがなされているので、すごく早い段階で「未就学児の心を育てる」活動に目をつけられたという印象です。

渡邊 感性を育てるのに一番大切なのは、五感を使ったり、自由に感じてそれを表現することです。今までの音楽教育や生演奏のコンサートは、鑑賞が中心でした。たとえばクラシックなら、「静かに聴きましょう」と言われます。そうすると子どもたちは静かに聴かなきゃいけない、と我慢をして、音楽を自由に感じることができなくなるのです。6歳までの子どもたちは、反応そのものが表現なので、それを自由にさせるのが大事です。私たちはクラシックコンサートを通して、できるだけ五感を使うこと、それから、音楽を自由に感じて自由に表現することを、とても大切にしています

子どもたちの様子
モーツァルトやブラームスで、子どもの自然な反応(表現)を引き出している

未就学児専門の団体だからできる、参加型のクラシックコンサート

佐藤理香

佐藤 プロの音楽家によるクラシックコンサートということですが、プログラムはどういった感じなのか、スタンダードなものを教えていただけますか。

渡邊 私たちは、クラシックの団体では唯一、未就学児を専門とした団体です。そこでの約10年間で培ったものがプログラムにギュッと入っています。プログラムは45分間の構成で、「聴く、歌う、みんなで演奏する」という3つのポイントがあります。「聴く」のところは、曲名だけではわからなくても、聴けばわかるようなモーツァルトの作品などを演奏します。「歌う」では、園歌や季節の歌など、子どもたちの大好きな曲を、生演奏に合わせて声を出して一緒にみんなで歌います。最後の「演奏する」では自然と手拍子したくなるような〈ラデツキー行進曲〉などを、みんなで一緒に演奏してコンサートを締めくくります。

佐藤 未就学児専用のプログラムを約10年間で作り上げてきたということですね。

渡邊 それらを、フルート・バイオリン・ビオラ・チェロという4つの楽器の四重奏で届けています。ピアノや吹奏楽系は割と身近なことが多いのですが、弦楽器ってなかなか触れないですよね。小さな園でも開催しやすく、オーケストラを一番ギュッと小さくしたハーモニーを体験できるので、四重奏を取り入れています。司会も子どもたちに届けるのに重要な役割を担っていて、ひとつずつの楽器の紹介なども入れています。実際に触れる楽器を用意することもできますよ。

佐藤 子どもたち専用に、オーケストラをギュっと凝縮したコンサートなんですね。しかもその中で、「聴く・歌う・学ぶ・触れる・動く」要素があるということ。洗練されたプログラムになってるんですね!園によって、こういうテーマでやってほしいなど色々なご要望があると思うんですけど、ご相談できるんですか?

渡邊 はい、歌いたい歌があれば、リクエストをお受けしています。幼稚園の園歌や、季節の歌とか。いつも先生のピアノで聴いている曲の前奏が四重奏の生演奏で流れてくると、自然と子どもたちの歌声も変わるんですよ。

「静かに聴きましょう」というお約束はありません

渡邊 モーツァルトやブラームスでも自然と体が動いたり、自然と手拍子が出たり、そういう反応をより引き出すようなパフォーマンスを心がけているので、「静かに聴きましょう」というお約束はありません

佐藤 私も参加させていただいて感じたのは、音楽家、司会の方も含めて惹きつけますよね。演奏のおにいさん・おねえさんがマニュアル通り進行するのではなくて、参加している子どもたちの目を見て、表情を見て、ちょっと言葉や仕草を加えたり、というのが見えました。

渡邊 音楽家は、子どもたちの様子を見ながらコミュニケーションを取ることをとても大切にしています。演奏する、鑑賞するというだけではなく、子どもたちが自由に反応して「わ、面白い」と思ったり、体が動いちゃったり、思わず手をたたいたり、クラシックなのに一緒に歌いだしちゃったりとか、そういう時に、音楽家がぱっと目を合わせて、そうだねっていう表情をその子に送ったりします。子どもたちの反応をより引き出すようなパフォーマンスをすることで、子どもたちに「これでいいんだ」という安心感や自信を与えることができます。音楽家の心とか、そこから生まれるパフォーマンスはとても大切にしています。

コンサートの様子
コンサート中、積極的に子どもたちとコミュニケーションをとるアーティストたち

佐藤 コンサートでは演奏者との距離がすごく近くて、音もビンビン伝わりますし、生の音が体に入る体験ができると感じました。

渡邊 大切にしていることの一つが、距離の近さなんですね。大きな舞台になってしまうと、やはり演奏者の表情が見えづらかったり、ダイレクトに楽器から出てきた音の振動を肌で感じることは難しいですよね。幼稚園や保育園にある遊戯室のようなフラットな場所で、肌で感じたり、目でじっくり見たり、そういう距離感を大切にしています。近いからこそ感じられるものがあると思っています。ステージと客席ではなく、近い距離、同じ高さで、「生演奏のパワーってこんなにすごいんだ」と音をダイレクトに感じる体験を、心躍る経験をさせてあげたいのです。もうひとつは、子どもたちってどうしても、場所見知りとか、知らない人同士が集まっていると人見知りとか、ちょっとした緊張感を抱えてしまうので、私たちはできるだけ、子どもの「いつもの場所でいつもの仲間と」と考えています

佐藤 そういう距離感を縮めたいと思ったきっかけは何かありますか。

渡邊 私が前職で、結婚式やイベントで生演奏のコーディネートをする仕事をやってたんです。その時に、何が一番楽しかったかって、そのリハーサルだったんです。小さい部屋で演奏していて、目の前でそれを聴いている時に、生演奏のパワーってこんなにすごいんだ、と。みんなにこれを聴かせてあげたい、特に子どもたちに、肌で音を感じる体験をさせてあげたいなと思ったんです。

佐藤 ああ、そこが原点なんですね!素敵。

年1回でもOK 繰り返しの体験が感性を育む

渡邊悠子

佐藤 保育園や保育園のイベントでの公演はどのような機会が多いですか?

渡邊 たとえばクリスマスのコンサート、芸術の秋のコンサートとか。あとは、卒園のコンサートで呼んでいただくこともあります。また、未就園児や入園を検討されている親子とか、ご近所の方をお招きするコンサートを定期的にされている幼稚園さんもあります。在園のご家庭だけではなく、ご近所にもとてもご好評をいただいているそうです。

佐藤 参加されているお客様からはどういう反応がありますか?

渡邊 ホールで子ども向けのコンサートはよくあるのですが、実際に小さいお子さんがいると、コンサートに連れて行くってなかなかできない。だから、幼稚園や保育園でそういう体験ができることに一番喜んでいただいています。あと大人は自分がゆっくり音楽を楽しむことって、小さい子どもがいると、まずできないじゃないですか。だから、園児向けのコンサートのあと、まだ子どもが幼稚園にいる時間に、保護者だけで音楽を楽しんでもらうという企画も好評です。

佐藤 プロの音楽家が近所の幼稚園や保育園に来て、それもかしこまらずリラックスして聴けるって、すごくプレミアムな体験ですね。

渡邊 コンサートが終わった後、クラスやご家庭に帰ってから、感じたことや楽器のことなど、子どもたちからいっぱいお話が出るそうです。お兄さんがどうだった、お姉さんがどうだった、あの曲が楽しかった、バイオリンってこういうふうになってるんだね、これでできているんだね、など。あとは、ラップの芯をフルートにして大切に何か月も持っていた子もいるそうで、音楽への興味関心だけではなくて、憧れや夢、それから想像力などが育まれていることをとても感じます。子どもたちも、楽しかったというだけではなく、たとえば綺麗だったとか、気持ちが良かったとか、コンサートの最後にさみしくって涙が出てきちゃったとか、心で感じたことを一生懸命言葉にする姿が見られるんですよ。

コンサート後の子どもたち
コンサート後に、さっそく遊びの中でおねえさんになりきる子どもたち

佐藤 感性を育てるには、”見る・聴く・表現する”を繰り返すことが大切なので、ぜひ繰り返し子どもたちには体験してほしいですね。年1回でも、2回でも継続することに大きな意味があると思います。

渡邊 年に1回のコンサートでも、感動からくる音楽への興味関心とか、体験は大きなインパクトがあります。最近は、コンサートに加えて、ミニプログラムを開発しました。1回ずつは小さくてもいいから、継続して音楽体験をできるようにと生まれた、「おとあそび」という音楽体験教室です。基本的には音に合わせて体を動かしたりする、リトミックのようなワークショップですが、毎回、「みんなのコンサート」からおにいさん、おねえさんがゲストに入ります。そしてプログラムの中に1曲、5分でも、鑑賞の時間を必ず入れています。まず音楽で心が動く、感動することが大事。それに加えて、たとえば速い・遅いとか、高い・低いとか、どういう気持ち、とかを表現します。そのようなプログラムを継続することで、より深くて具体的な音楽体験ができ、豊かな感性に加えてリズム感や表現力を身に付けることができます。現在、幼稚園の正課や課外のプログラムとして、また保育園でも、保育の特色としてご利用いただいています。

佐藤 カメラメーカーのニコンさんが調査した結果によると、7割以上のお母さん達が、子どもの感性を育みたいと思っている、またはそのような教育を重視しているそうです。ただ、一方で、同じく7割以上の方が、感性の育み方がわからないと回答しました。この点に関しては、どう思われますか?

渡邊 私も8か月の娘がいて、心を豊かに、とか感性を育てる、ということにとても興味があるのですが、実際にはなかなか難しいですよね。日常の中では、目の前にテレビがあるし、母親である私は携帯もパソコンも目の前で触っています。もしかしたら良くないかも、と思うことが日常には溢れているんです。でも、頭では、いいだろうと思っていることってありますよね。自然に触れるとか、五感を使うとか、たくさん声をかけてコミュニケーションを取るとか。このコンサートには、そういった子どもを心豊かに育てる要素をいっぱいいっぱいギュッと詰め込みました。大切な未就学の時期に、多くのお子さんに体験していただきたいです。そして、1回でも体験できるようなお子さんを1人でも多く増やしていきたいです。

佐藤 お話を聞いていると、子どもたちが自然と歌いだすとか、拍手をするとか、体が動くというのは、音楽を感じて気持ちを出していて、「こうしたいな」ってわざわざ思わないで、スッとやっているのだと思います。そのような無意識で表れる行動が感性のあらわれで、とても素敵なことなんです。音楽の力が、そういった感性をどんどん後押しして、表に出してあげている。この活動に、今後も心から期待をしています。

 

【プロフィール】
佐藤 理香(さとう りか)
教育コンサルタント、株式会社子育て研究所代表取締役。ベネッセコーポレーションなど教育業界で長年勤務、幼児教育から高等教育まで幅広く知見を深めたのち同社の代表取締役に就任。教育コンサルタントや子育て研究所代表として感性教育に関する講演活動も行っている。各種ビジネスコンテストで複数の受賞歴がある。